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前歯の部分入れ歯で後悔しないための選び方と、入れ歯の種類や特徴・費用などを詳しく解説します

前歯を失ってしまったとき、まず思い浮かぶ治療法の一つが部分入れ歯です。見た目への影響が大きい前歯は、審美性だけでなく、噛む・話すといった日常の基本動作にも深く関わるため、失ったまま放置すれば、口元だけでなく心身にもさまざまな不調をもたらしかねません。

特に前歯の部分入れ歯は、見た目の自然さや違和感の少なさだけでなく、噛み合わせのバランスも重要なポイントになります。

本記事では、「前歯の部分入れ歯で後悔しない選び方」をテーマに、治療方法の種類・費用・見た目の違いから、噛み合わせや将来への影響まで、専門的な視点で丁寧に解説します。
 

目次



前歯を失ってしまう原因について

前歯は、審美性だけでなく発音や咀嚼、噛み合わせのバランスを保つうえでも重要な役割を担っています。にもかかわらず、前歯を部分入れ歯で補わざるを得ないケースは少なくありません。 

ここでは、前歯を失ってしまう代表的な4つの原因について解説します。

虫歯の進行

前歯は見た目で異変に気づきやすい部位ですが、それでも虫歯によって抜歯が必要になることがあります。特に神経まで進行した虫歯を放置すると、歯の根が膿んで骨にまで炎症が広がり、保存困難な状態になります。

また、治療済みの前歯が年月を経て内部から再感染を起こし、再治療が難しいケースもあります。見た目に変化がなくても、違和感があれば早めの受診が肝要でしょう。

歯周病

歯周病は歯ぐきや歯を支える骨に炎症を起こす疾患で、静かに進行するため気づいたときにはすでに重度ということも。特に前歯は口呼吸やブラッシングの癖などによりプラークが残りやすく、歯周病の影響を受けやすい部位です。

歯ぐきの腫れや出血、歯のぐらつきが見られたら要注意。進行すれば歯が自然に抜けてしまうこともあります。

外傷による場合

転倒やスポーツ中の衝突、交通事故など、突発的な外傷により前歯が破折・脱落することもあります。前歯は顔面の正面に位置しているため、外力を受けやすい部位です。

破折の程度によっては、歯を元に戻すことが可能なケースもありますが、根の深い部分まで損傷が及ぶと保存が難しく、抜歯から部分入れ歯やインプラントによる補綴が検討されます。

噛み合わせや、治療による劣化

意外に見落とされがちなのが、噛み合わせや過去の治療による前歯へのダメージです。
たとえば、奥歯の高さを過度に低く削ってしまうと「バーティカルストップ※の欠如」が起こり、その代償として前歯に過剰な力が加わります。これが長期にわたり続くと、前歯が突き上げられるように摩耗・破折し、やがて喪失に至ることも。

また、被せ物や義歯のバランスが悪いと噛み合わせ全体が乱れ、前歯だけに負担が集中してしまいます。このような機能的破綻を防ぐには、ただ見た目を整えるだけでなく、「アンテリアガイダンス(前歯が奥歯を守る機能)」を意識した咬合設計が必要不可欠です。

前歯がない状態を放置すると、アンテリアガイダンスが失われ、結果として奥歯を壊すリスクもあるため、噛み合わせ全体を慎重に考慮することが重要です。

※バーティカルストップ…噛んだときに上下の歯が深くかみ込みすぎないように、ストッパーの役割をしている奥歯のこと。これを失うと、代わりに前歯がその力を受けてしまい、割れたりグラついたりする原因にもなる。
 

前歯がない状態を放置するリスク

前歯を失ったまま放置することは、見た目の問題にとどまらず、噛む・話すといった日常の基本動作に深刻な影響を及ぼします。 

ここでは、部分入れ歯などで早期に補わないことによる4つの主なリスクについて解説します。

機能的な問題

前歯は食べ物を「噛み切る」ために欠かせない歯です。1本でも失うと、硬いものや繊維質の食材を咀嚼する効率が著しく低下します。

また、発音時にも前歯は舌と唇の位置関係を調整する役割を担っており、「サ行」や「タ行」などが不明瞭になることも。会話や食事のしづらさは、社会的なストレスにもつながりかねません。

歯並びや噛み合わせの悪化

前歯が抜けたままだと、両隣の歯が空いたスペースに傾き、対合する歯が伸びてくることで、歯列全体が崩れてしまいます。

特に前歯は「アンテリアガイダンス」として奥歯を保護する役割を果たしており、前歯が欠けると奥歯に過剰な負担がかかるようになります。

これは噛み合わせの不均衡を招き、さらなる歯の喪失リスクにもつながります。

顎への影響

前歯を失うことで噛み合わせが乱れると、顎の動きにも影響が出てきます。特に顎関節に無理な力がかかると、顎関節症を引き起こす可能性があり、「口が開けづらい」「カクカク音が鳴る」といった症状の原因にも。

部分入れ歯であっても、噛み合わせの調整が不十分な場合は同様の問題を引き起こすため、丁寧な咬合設計が必要です。

全身への影響

前歯の欠損からくる噛み合わせの乱れは、やがて首や肩の筋緊張、姿勢の歪みといった全身症状へと波及することがあります。

特に長期にわたって前歯の機能が欠如していると、慢性的な肩こりや頭痛、消化不良など、予期せぬ体調不良の引き金になることもあるのです。
 

前歯を失った場合の治療方法と費用

前歯の治療では、見た目だけでなく噛み合わせの調整が非常に重要です。  噛み合わせが原因で前歯を失った場合、正しい咬合設計がなされていないと再発や他の歯の損傷リスクが高まります。 

入れ歯治療においても、噛み合わせが合わないまま使用を続けると、対合歯や奥歯への負担が増し、結果的にさらなる歯の喪失や顎関節への影響が起こる可能性があります。  そのため、見た目だけでなく機能面を考慮した総合的な治療計画が不可欠です。

ここでは、前歯を失った際に選択できる主な治療方法(部分入れ歯・ブリッジ・インプラント)の違いや、それぞれにかかる費用について解説します。

種類と特徴(入れ歯、ブリッジ、インプラント)

前歯を失った場合の治療法には、大きく分けて次の3つの選択肢があります。

  • 部分入れ歯
  • ブリッジ
  • インプラント

これらについては、のちのセクションでそれぞれ詳しく説明していますので、まずは概要を押さえておきましょう。

部分入れ歯は、取り外し可能で比較的低コストな治療法です。装着や調整が簡単な反面、噛み心地や審美性においてやや劣ることがあります。

部分入れ歯を選ぶ際は、特に噛み合わせの調整が肝心です。  噛み合わせが悪いと、前歯だけでなく他の歯も負担がかかりやすく、長期的に見ると他歯の破損や顎関節症のリスクも高まります。 

特に、もともと噛み合わせの問題で前歯を失った場合には、咬合の再設計をせずに入れ歯を装着すると、再び同じトラブルを繰り返す可能性があります。

さらに合わない前歯の部分入れ歯を使い続けると、対になる前歯や奥歯にも過剰な力が加わり、欠けたり壊れたりすることがあるため、非常に繊細な調整が必要です。

ブリッジは、失った歯の両隣を削って橋渡しのように人工歯を固定する方法で、見た目や噛み心地は自然ですが、健康な歯を削る必要があります。

インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込む治療法で、機能性・審美性ともに優れていますが、費用が高く、手術を伴うため一定の健康状態が求められます。


自費診療と保険適用の違い

部分入れ歯やブリッジの一部は健康保険が適用される場合がありますが、見た目に配慮した材質(ノンクラスプやセラミックなど)やインプラントは原則として自費診療です。

保険診療では機能の回復が主目的となるため、審美性や精密な噛み合わせ調整には限界があります。

費用について

  • 保険適用の部分入れ歯:数千円〜1万円程度(自己負担3割の場合)
  • 保険適用のブリッジ:1万〜2万円ほどが目安(自己負担3割の場合)
  • 自費の部分入れ歯:10〜30万円程度
  • インプラント:1本あたり30〜50万円が相場

前歯の部分入れ歯の種類と費用

前歯の部分入れ歯は機能と審美性の両立が求められますが、特に噛み合わせのバランスが崩れると全体のお口の健康に悪影響を及ぼします。 

ここでは、前歯に用いられる部分入れ歯の代表的な種類と、それぞれの特徴・費用についてご紹介します。

レジン床義歯

もっとも基本的なタイプが「レジン床義歯」です。ピンク色の樹脂(レジン)でできており、保険適用が可能なため、費用を抑えて部分入れ歯を作りたい方に適しています。

前歯にも適用可能ですが、見た目や装着感に限界があり、金属のバネ(クラスプ)が見える点が気になる方もいるかもしれません。

費用目安:保険適用で5,000円~1万円程度(3割負担の場合)

金属床義歯

「金属床義歯」は、土台部分にコバルトクロムやチタンなどの金属を使用したタイプで、強度と薄さに優れています。

装着時の違和感が少なく、熱伝導性にも優れるため食事の楽しみを損なわないのが特徴です。自費診療となるため費用は高めですが、耐久性を重視したい方には適しています。

費用目安:20万〜30万円程度(自費)

シリコーン義歯

シリコーン義歯は、人工歯と床の間に柔らかいシリコーン素材を用いることで、歯ぐきに優しくフィットする入れ歯です。前歯にも対応可能で、装着感の良さが魅力ですが、長期使用で劣化しやすく、定期的なメンテナンスが必要です。

痛みや違和感が出やすい方におすすめされることがありますが、やわらかく動くため、正しい噛み合わせの機能を果たせないことがあります。入れ歯や噛み合わせに詳しい歯科医師への相談をおすすめします

費用目安:10万〜20万円程度(自費)

ノンクラスプデンチャー

審美性を重視する方に人気なのがノンクラスプデンチャーです。金属のバネを使わず、歯ぐきに近い色の樹脂で歯に固定するため、口を開けたときにも目立ちにくいのが特徴です。

特に前歯の部分入れ歯として選ばれることが多く、自然な仕上がりを求める方に向いています。

ただし、耐久性や正しい噛み合わせの機能が果たせないことがあるため、入れ歯や噛み合わせに詳しい歯科医師への相談をおすすめします。

費用目安:10万〜25万円程度(自費)

テレスコープ義歯

「テレスコープ義歯」は、残っている歯に金属の内冠を装着し、その上から義歯を被せて固定する精密な構造の入れ歯です。

義歯としての安定性が高く、金属のバネも見えないため、前歯に適用しても見た目が非常に自然です。特に、噛み合わせに配慮した設計が可能であるため、前歯を失った原因が噛み合わせにある場合に理想的な選択肢といえるでしょう。

ただし、適用には残存歯の状態や歯科医院の対応力が求められます。

費用目安:150万円以上(自費) 
 

前歯を1本だけ失った場合の治療法|部分入れ歯以外の自然な選択肢とは


前歯を1本だけ失った場合、見た目の自然さを重視して治療方法を選ぶことが大切です。ここでは、部分入れ歯に代わる選択肢として「インプラント」と「ブリッジ」を詳しくご紹介します。

インプラント

インプラントは、顎の骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込み、その上にセラミックの人工歯を装着する治療法です。周囲の歯に負担をかけず、天然歯のような美しさと機能性が得られます。

1本だけの前歯にも適応でき、審美性を求める方に人気です。ただし、骨の状態や全身の健康状態により適応が限られる場合があります。

費用目安:1本あたり30〜50万円(自費)

ブリッジ

ブリッジは、失った歯の両隣の健康な歯を削って支台とし、連結した人工歯を橋渡しする方法です。前歯であれば目立たない素材(ジルコニアなど)を使うことで、自然な仕上がりが期待できます。 

インプラントより治療期間が短いのが利点ですが、健康な歯を削るリスクがあるため慎重な判断が必要です。

いずれの治療法も、見た目の自然さだけでなく噛み合わせへの影響も考慮して選ぶことが重要です。信頼できる歯科医と相談し、自分に合った方法を選びましょう。

費用目安:保険適用・3割負担の場合は1万〜2万円程度、自費の場合は10~20万円程度
 

まとめ

前歯の部分入れ歯は、見た目の美しさだけでなく、噛む機能や噛み合わせのバランスも重視される治療です。噛み合わせが乱れたまま放置すると、お口全体の健康に悪影響を及ぼし、他の歯の寿命を縮めてしまう可能性があります。

また、審美性が高くても、アンテリアガイダンス(前歯が奥歯を守る仕組み)が欠如している入れ歯は、他の歯の喪失や顎関節への負担、さらには肩こりや頭痛などの全身への悪影響を引き起こすこともあるため注意が必要です。

入れ歯、ブリッジ、インプラント――どの治療法を選ぶ場合でも、「見た目の自然さ」だけで判断せず、正しい噛み合わせの設計を重視することが重要です。

特に、「バーティカルストップの欠如」や「アンテリアガイダンスの喪失」があると、奥歯の破損や顎関節症、全身症状にまでつながる恐れがあります。

治療方法は一人ひとり異なります。信頼できる歯科医師とよく相談し、機能性・審美性・健康面のすべてを考慮した最適な治療法を慎重に選択しましょう。


この記事を書いた人

嶋倉史剛
◆経歴
2000年 明海大学歯学部 卒業
2000年~2006年 明海大学病院歯周病科 勤務
2012年9月 あらやしき歯科医院 開業

◆所属・資格
IPSG包括歯科医療研究会 副会長
明海大学歯周病学分野同門会
日本総合口腔医療学会 口腔総合医認定医 常任理事
オーラルビューティーフード協会 理事
日本医歯薬専門学校非常勤講師
日本顎咬合学会 かみ合わせ認定医

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